「雅楽 篳篥の鵜殿のヨシの保全に関する声明」
日本音楽史研究者有志 16名

 雅楽に使われる楽器の篳篥の蘆舌(リード)は、古来、大阪(摂津国)の淀川の鵜殿に自生する葦(よし)で作るものが、もっとも良いものとして使われてきました。 江戸時代初期に禁裏出仕の累代の篳篥奏者である安倍季尚が著した『楽家録』の「蘆舌制法」にも「蘆舌の蘆(よし)は(中略)、古来摂津国鵜殿の地に生ずるところの蘆、これを用ゆ。(原漢文)」 と明記されています。
この伝統は現代にも受け継がれ、宮内庁式部職楽部をはじめ多くの篳篥演奏家が鵜殿の葦を使用しています。
  しかし、ここ数年、環境の変化により篳篥に使用できる葦が減少してきました。また、当地の高速道路建設計画が実現してしまうと篳篥に使用できる葦は絶滅してしまうでしょう。
雅楽は、古(いにしえ)から伝えられている総合芸術として、現在世界中から見直され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されております。
また現代の日本においても多くの日本人が雅楽に癒されています。
   雅楽の中で篳篥は、ひときわ個性的な音色を奏で、雅楽の音色を決定付けます。鵜殿の葦から奏でられる篳篥の音色は、雅楽に欠かせない音色として古来親しまれてきたものです。 楽器の音色は素材に大きく左右されます。鵜殿の葦が絶滅することは、こうした雅楽の音色の死を意味することになります。
 古来日本人が大切にしてきた雅楽の音色の危機を、日本音楽史を研究する者として見過ごすとはできません。ここに鵜殿の環境保全を強く要望します。
  2012年6月5日 (順不同)

 
  • 内田順子(国立歴史民俗博物館准教授) 
  • 遠藤徹(東京学芸大学准教授、社団法人東洋音楽学会理事 呼びかけ人)
  • 小塩さとみ(宮城教育大学教授、社団法人東洋音楽学会理事)
  • 加藤富美子(東京学芸大学教授、社団法人東洋音楽学会理事)
  • 金城厚(沖縄県立芸術大学音楽学部長、社団法人東洋音楽学会会長)
  • 小島美子(国立歴史民俗博物館名誉教授)
  • 薦田治子(武蔵野音楽大学教授)
  • 近藤静乃(東京芸術大学音楽学部非常勤講師)
  • 佐藤浩司(天理大学人間学部教授 天理大学雅楽部顧問)
  • 澤田篤子(洗足学園音楽大学教授)
  • 島添貴美子(富山大学准教授)
  • 竹内有一(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター准教授)
  • 寺内直子(神戸大学国際文化学研究科教授)
  • 丹羽幸江(日本学術振興会特別研究員、昭和音楽大学非常勤講師)
  • 野川美穂子(東京芸術大学講師)
  • 南谷美保(四天王寺大学教授 人文社会学部学部長)
  • バーバラ・ルーシュ ( コロンビア大学教授)
  • ミリオーレ・マリア・キアラ (イタリア国立サレント大学日本語・日本文学教授)
  • 黄俊淵 (ソウル大学国楽科教授)
 
ページのトップへ戻る