2012年4月6日、上牧・鵜殿ヨシ原を横断する新名神高速道路建設の閣議決定がなされました。これ以上ヨシ原に何かの手が加わると、さらに篳篥用ヨシの材質が悪くなるのではないかという危惧から、高速道路建設見直しを求める署名活動も行われ合計10万筆余の署名が集まりました。
しかし、高速道路建設の見直しは実現せず、工事を請け負った西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)は、会社の中に学識者6名、オブザーバー6(団体及び個人)、事業者による「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」(以下「検討会」)を2013年1月10日に設置し、2017年5月17日までの4年半の間に9回開催しました。私は毎回大阪に行き「検討会」を傍聴し、検討された内容をその都度「雅楽だより」に書くようにいたしました。
「検討会」は、2017年10月『鵜殿ヨシ原における植物調査に関する報告書』(A4判130頁以下『報告書』)として調査・検討した内容をまとめ冊子として発行しました。 (この『報告書』はNEXCO西日本のホームページより、
事業案内→鵜殿ヨシ原→報告書 と順に検索すると読めます)
この『報告書』の「第4章 事業による篳篥用ヨシへの影響の把握」4-10 「第5章 篳篥用ヨシの保全と新名神高速道路事業の両立に向けた提言」5-8 によると
○「鵜殿では、陸域のヨシが、水域のヨシに比べて生育がよい」
○「導水路に生えているヨシは茎が太くても厚みがなく、もろくて割れやすいため、 篳篥用ヨシとしては採取していない」
○「篳篥用ヨシの採取エリアは通水により冠水しない微高地のオギ・ヨシ群落である」 〇「篳篥用ヨシの採取エリアのヨシの根系への水分補給は雨水が主体的である」
○「篳篥用ヨシは遺伝的要因で決定しない」
これ等をまとめると、
(1)導水路及び導水路近辺のヨシは、篳篥用ヨシには使えない。
(『報告書』の表現は、「導水路に生えているヨシは茎が太くても厚みがなく、もろくて割れやすいため、篳篥用ヨシとしては採取していない」)
(2)鵜殿では、陸域のヨシが、水域のヨシに比べて生育が良い。
(3)篳篥用ヨシは、導水路から離れた少し高いところに生えている。
(4)篳篥用ヨシの水分の供給は、雨水がほとんどである。
(5)篳篥用ヨシは、ヨシの遺伝的要因(DNA)は関係なく、生育環境によって育つ。
そして『報告書』の「おわりに」(6-1頁)には、雑草やつる草などが増えることについて言及し次のように記しています。
「治水上の観点で一般的な河川で行われている河床整備により、河川流量が安定化することは、自然環境においては、河川敷の冠水頻度の減少により侵入植物が増加し、植生の変化を招く場合がある。鵜殿ヨシ原においても例外ではなく、ヨシ原焼き等の取組みにより現況植生の維持を図っているが、つる植物や外来植物の侵入が顕著となっており、その保全の妨げとなる可能性がある」と。
言い回しが分かりにくいので、私なりに読みかえると
「1971年の河川工事により洪水などが減り、環境が変わったので、ヨシ原につる草や雑草などが増えていった。だから篳篥用ヨシが減る。ヨシ原焼きなどだけでは現況を維持することは出来ない。今後はつる草や雑草などを取り除く必要がある。そのような対処をしないと篳篥用ヨシを保全していくことはできない」となろうかと思います。
「検討会」の内容を再度まとめると、篳篥用ヨシは、導水路の中や近辺、水の多い所(水域)では育たない。篳篥用ヨシは水分の補給は雨水で大丈夫で、水の来ない所(陸域)で育つ。ただし、1971年の河川工事で環境が変わったので、つる草や雑草がはびこるようになった。これは仕方のないことで、このつる草を退治する方法を考えなくてはいけない、となる。