篳篥用ヨシにとって水との関係をどうすれば良いのかについて、振り返っておきたい。
淀川環境委員会の報告を抜きだすと、2009年では「水条件の改善のみではヨシ群落への回復は難しい」(2009年第24回淀川環境委員会)、2010年には「導水対策のその効果は十分ではない」とあります。NEXCOの4年余りの調査研究で「検討会」は、前述の様にヨシ原の中でも乾いたところでしか篳篥用ヨシは育たない、という結論でした。
「検討会」の委員でもある布谷知夫氏は、2014年の段階で「ヨシ原の面積を広げることと、篳篥用ヨシを守ることは相いれない。別にエリアを定めて篳篥用に適した環境を整備するなど、次の手をうたないと先細りは明らかだと発言しています。(読売新聞2014年7月9日大阪本社版)また、この記事によればヨシ原の中の導水路が2012年にさらに広くヨシ原を流れる工事が行われ、以後「下流の鵜殿地区には、篳篥に適したヨシが育っていない。細々とやってきたのに下流域の篳篥用ヨシは壊滅状態だ。今年は上流側の上牧地区で篳篥用ヨシ採取して数量を確保できた」(読売新聞2014年7月9日大阪本社版)
ヨシ原の下流側鵜殿地区にも水が流されるようになってからは、鵜殿地区では篳篥用ヨシは採取出来なくなったといいます。
昨年2019年4月に筑波大学で、篳篥の蘆舌の葦材に関する研究を進めている筑波大学生命環境系の准教授である小幡谷英一氏とお会いし、研究の内容を教えていただきました。そして「雅楽だより」59号、60号にその研究の成果の一端を書いていただきました。
篳篥用ヨシとそれ以外のヨシの違いについて要点だけを抜き出してみると
「葦は竹と同様、非常に繁殖力が強い」
「鵜殿の葦なら何でも良いというわけではない」
「導水路の周辺は通水時に水に浸ります。このような「水域」で育つ葦は、蘆舌には適していません」
「水に浸らない乾いた土地があります。蘆舌に使われるのは、このような陸域の葦です」そして
「乾いたエリアでは、草本植物が葦よりも早く成長したり、つる性の植物が葦を引き倒したりして、葦が成長するのを邪魔します。その結果、鵜殿の一部のエリアでは、葦が完全に駆逐され、草本植物に占拠されています。したがつて「蘆舌用の葦を守ること」と「葦原を守ること」を分けて考える必要があります。どんな葦でも良いなら、水を引けば葦が育ちます。しかし、蘆舌用の「陸域の葦」を守ろうとするなら、他の植物の侵入や繁茂を防ぐ努力をしなければなりません。篳篥や雅楽を守りたいなら、葦原と蘆舌用葦を混同せず、冷静に議論する必要があります」と書いています。(「雅楽だより」59号2019年10月号『蘆舌用葦材の物性Ⅰ』)
淀川環境委員会の報告、「検討会」の報告、小幡谷氏の研究成果を読み、また実際にヨシ原の様子を見ていると、「ヨシ一般を守る」ことと「篳篥用ヨシを守る」ことは全く逆の対策を取らないといけないということを実感するのでした。
すなわち私が今まで「ヨシを増やせば、太いヨシも生えてその中から篳篥用ヨシも増えてくる」という思い込みは間違っていたという事です。この間違いを正していかないと篳篥用ヨシの保存も再生もできないということでした。