『ヨシ原通信』No.116 2022年11月3日(木)

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『ヨシ原通信』No.116 2022年11月3日(木)
発行 雅楽協議会 ヨシ対策室事務局(担当 鈴木治夫)

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篳篥を吹く源博雅(『陰陽師 玉手匣 2』より)
ⓒReiko Okano
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[1] 振り返り-9
[2]「まとめの会」を開きます。 11月18日(金)午後1時30分 上牧公民館
[3]「ヨシ原の今後を考えるシンポジュウム」 12月3日、4日
[4] 篳篥の不思議と神秘-8
[5]『ヨシ原通信』バックナンバー
[6] 寄付のお願い
[7] 問合せ先

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[1] 振り返り-9

蘆舌用(篳篥のリード)のヨシについて。

陸域のヨシを使用、水域のヨシは使えない。

ヨシに私が関わり始めた18年前(2005年)、私は「ヨシを増やせば細いヨシも太くなって、篳篥の蘆舌にも使えるヨシが育つ」と思っていました、しかし10年余り前、2013年1月10日より始まった「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」(以下「検討会」)を傍聴する中で「篳篥用ヨシは、育つ環境を整えないと育たたない。逆に言えば、環境を整えれば篳篥用ヨシが生育する」ことを知りました。

2014年7月14日読売新聞夕刊に「篳篥 先細るヨシ」と写真入り7段抜きの大きな記事が掲載されました。

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記事には「再生事業で量回復も質変化」とサブタイトルも付いています。

そして「ヨシの生態に詳しい布谷和夫・三重県立博物館長(植物生態学)は「ヨシ原の面積を広げることと、篳篥用のヨシを守ることは相いれない。別にエリアを定めて篳篥用に適とした環境を整備するなど、次の手を打たないと先細りは明らかだ」と懸念を示している」と布谷氏の提言を掲載しています。布谷氏は検討会の委員でもあります。

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2014年7月9日 読売新聞夕刊

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第1回検討会(2013年1月10日 高槻市民会館 (撮影 鈴木)

「検討会」は、『鵜殿ヨシ原における勅物調査に関する報告書』を2017年(平成29)10月に発行しました。
この『報告書』でも「陸ヨシと水ヨシ」について言及しています。

下記アドレスより全文が読めます。
h2910_main.pdf (w-nexco.co.jp)

『報告書』では「導水路に生えているヨシは茎が太くても厚みがなく、もろく割れやすいため、篳篥用ヨシとしては採取されていない」(3-2)

「鵜殿では、陸域のヨシが、水域のヨシに比べて生育が良い」「比較的地盤が高い方が採取場所としては良い傾向」「(篳篥用ヨシの)採取エリアは、シルト層と砂質土層が主体である」「(篳篥用ヨシの)採取エリアは通水により冠水しない微高地のオギ-ヨシ群落である」(5-8)

そして『報告書』の最後に「篳篥用ヨシの継続的採取が可能な環境の保全が図られることを望むものである。さらに、工事終了後、より良いヨシ原の生育環境が持続的に維持されることを期待するものである」(6-1)と記し「篳篥用ヨシの継続的・持続的保全を望む」と結んでいます。

「陸ヨシ」と「水ヨシ」については、小幡谷 英一 筑波大学生命環境系教授も「蘆舌用葦材の物性 I」との論文を書かれています。

(全文は下記アドレスから 又は『雅楽だより』59号、60号)

蘆舌用葦材の物性 | 雅楽協議会 (gagaku-kyougikai.com)

蘆舌用葦材の物性II | 雅楽協議会 (gagaku-kyougikai.com)

この論文の中で小幡谷英一氏は「「蘆舌用の葦を守ること」と「葦原を守ること」を分けて考える必要があります。どんな葦でも良いなら、水を引けば葦が育ちます。しかし、蘆舌用の「陸域の葦」を守ろうとするなら、他の植物の侵入や繁茂を防ぐ努力をしなければなりません。篳篥や雅楽を守りたいなら、葦原と蘆舌用葦を混同せず、冷静に議論する必要があります」と書いています。

これらのことを十分に踏まえて「篳篥用ヨシ保全」の活動を今後も進めていきたいと思っています。

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[2]「まとめの会」を開きます。

11月18日(金)午後1時30分 上牧公民館
「つる草抜き」初年の「まとめの会」を開きます。

来年の「つる草抜き」に向けて、良かった事、改善したほうが良い事、などなど情報を共有するとともに意見を出し合う会です。
多くの皆さまの参加をお待ちしています。

『上牧・鵜殿ヨシ原の篳篥用ヨシの再生に向けた取り組み 中間報告』(A4 20p)にまとめてあります。下記よりダウンロードするとどなたでも読むことが出来ます。
https://drive.google.com/drive/folders/1M4MpYYxGF_GAdzrpjayvbI6BEw6zO8YX

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[3] ヨシ原の今後を考えるシンポジュウム

ヨシ原の「千年の歴史の終焉をどのように回避するのか、について考えを深め、意見交流をし、今後の動きにつなげてゆきたい」と下記の内容のシンポジュウムが開かれます。
多くの皆さんと共に考えていきたいと思います。

【淀川河岸・三川合流地帯のヨシ原から考える社会生態史学の試み】

【1日目】

12月3日(土)午後1時30分~
会場 国際日本文化研究センター(京都市西京区)

ご挨拶:劉建輝(国際日本文化研究センター教授)
伊藤謙(大阪大学総合学術博物館講師・科研代表)

司会:深尾葉子(大阪大学人文学研究科教授)

発言者(敬称略)
〇鈴木治夫〇木村和男〇綾史郎〇田口圭介〇三好龍孝

座談会・懇談会

【2日目】

12月4日(日) 午前10時~
本澄寺にて お話 〇高田みちよ ヨシ原へ 午後 雅楽演奏

安満遺跡公園へ移動。遺跡見学 総合討論 会食有

【問合せ・お申込み先】

参加申し込み等の連絡先 深尾研究室 fukaoken@outlook.jp(担当:谷俊作)
★可能な方は以下のグーグルフォームを使ってお申込みください。のちほど事務局からご連絡差し上げます。https://forms.gle/2jezoXB9Vx3iBgFj9

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[4] 篳篥の不思議と神秘-8

最澄も空海も行教も菅原道真も大安寺に住まう

大安寺はJR奈良駅から南西へ約1.5㎞ほど、北東にある東大寺よりも近い距離です。現在は少しさびれたお寺という感じです。しかし、歴史を紐解くととても大きくて大切なお寺だったことが分かります。

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現在の大安寺 南門 (2022.10.11)

大安寺の前身は、聖徳太子が建立した「熊凝精舎(くまごりしょうじゃ)」から始まり、「百済大寺」「大官大寺」と名前を変えたりしながら飛鳥時代の中心的な寺院として栄えたといいます。

そして平城京遷都(710年)に伴い、716年に現在の地に移され「大安寺」と名前を変えます。『古事記』(712年)や『日本書紀』(720年)が書かれた時代で、東大寺(752年)のできる前です。

奈良時代の大安寺は、国の筆頭寺院として仏教の総合大学の様相も呈し877名もの学僧がここで学び、また迎賓館の役割もあり、外国人が泊る施設でもありました。仏教は538年に日本に伝わりましたので大陸や朝鮮半島からの外国人も多く来日し、そのような方々は大安寺に住みました。この大安寺は国際交流の場でもあったのです。

大安寺は東西に七重塔が建てられ、1000人余りの人々が学び、交流し、暮らせるとても大きなお寺でした。東大寺のできる前からのことです。

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大安寺 東塔跡 解説看板より(2022.10.11 写真 鈴木)

奈良時代、JR奈良駅の南1㎞辺りにこのような寺院があったのです。
これが大安寺で、石清水八幡宮を勧請した行教もここに住み、学び修行していました。

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「大安寺歴代住侶供養碑」大安寺境内 (2022.10.11)

この写真は大安寺境内の「大安寺歴代住侶供養碑」です。大安寺で学んだ名僧の氏名が刻まれています。

そこには、雅楽を伝え東大寺の大導師にもなった菩提僊那(ぼだいせんな、704年 – 760年)。736年に来日し東大寺大仏開眼供養法会(752年)で婆羅門僧正として大導師を務めました。

一緒に雅楽を伝えた仏哲は「大仏開眼舞楽指導」と刻まれています。仏哲(ぶってつ 生没年不詳) は菩提僊那らと共に736年に来日し、大安寺で林邑楽(迦陵頻、陪臚、抜頭、菩薩、陵王など異説有)を多くの楽人たちに伝え、(752年)東大寺大仏開眼供養会で舞楽を奉納し、また多くの密教経典、論籍も請来しました。

行表(ぎょうひょう、722年 – 797年)奈良時代の僧。最澄の師。

空海(くうかい、774年- 835年)真言宗の開祖。

もちろん行教(生没年不詳 829年に石清水八幡宮を勧請)も「石清水八幡宮鎮座主導」と刻まれています。

ここに刻まれてはいませんが、天台宗の最澄や菅原道真も居住したとあります。(大安寺発行のパンフレット)菅原道真もここで学んでいたことを知り、感慨深いものを感じます。

大安寺は多くの楽人が集い雅楽・舞楽を学び伝える場所でもあったのです。行教が雅楽の作曲をしても何の不思議も無い環境でした。

最澄(さいちょう766年- 822年)天台宗の開祖
菅原 道真(すがわらのみちざね、845年-903年)

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[5]『ヨシ原通信』バックナンバー

『ヨシ原通信』を拡散していただけるとありがたいです。
『ヨシ原通信』のバックナンバーは、下記より読むことが出来ます。
http://gagaku-kyougikai.com/?p=684

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[6] 寄付のお願い

「つる草抜き」の活動を続けていくための寄付をお願いしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

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●郵便局は
郵便振込用紙に「ヨシへ寄付」と記入頂き
[口座番号]00140‐5‐614032
[加入者名]雅楽協議会

●銀行は
三井住友銀行 田無支店
普通 4012320
雅楽協議会 鈴木治夫

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[7] 問合せ先・連絡先

メール gagakudayori@yahoo.co.jp
℡042-451-8898 ℡090-1538-1693
雅楽協議会 http://gagaku-kyougikai.com

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