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『ヨシ原通信』No.335 2024年10月25日(金)
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[1]「蘆舌の材として各地のヨシ(上牧・鵜殿/西の湖/北上川/渡良瀬遊水地) 」
[2]『篳篥用ヨシの再生へ』活動記録 冊子発行
[3] 篳篥の蘆舌用ヨシの購入について
[4]『ヨシ原通信』バックナンバー
[5] 問合せ先
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[1]「蘆舌の材として各地のヨシ(上牧・鵜殿/西の湖/北上川/渡良瀬遊水地) 」
『シンポジュウム 森と支える「知恵とわざ」無形文遺産の未来のために』より
発行 独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所 無形文化遺産部
東京文化財研究所 無形文化遺産部(以下 東文研)は今年2024年8月9日(金)にシンポジュウム「森と支える「知恵とわざ」無形文遺産の未来のために」を開催しました。
第1部の中で「篳篥の蘆舌」の製作の実演は篳篥奏者の中村仁美さん。第2部の報告で「素材を育む自然・社会環境―ヨシを例に」は東文研無形文化遺産部の前原恵美さんでした。このシンポジュウムの記録報告書が9月に発行されました。
写真 8月9日のシンポジュウムの報告書の表紙 発行 東京文化財研究所(A4判 77頁)
この報告書は、充実した内容の報告書です。
転載の許可を頂きましたので、前原恵美さんの報告から、一番関心があると思われる各地のヨシを蘆舌にした時の「製作感、演奏感」の一部を紹介させていただきます。
篳篥の蘆舌の材料としての4つの要件
上 写真図(図2 篳篥の蘆舌の材料としての要件)p58
ここには篳篥の蘆舌の材料としての要件として4つ挙げられておりますのでその要約を書き出します。
(なお、小幡谷英一「蘆舌用葦材の物性1」を参考にしたとあります)
①稈の外径 11.5~12.1㎜→ヨシとしては太い
(しかも太すぎると管に装着できない)
②稈の厚み 1.2~1.4㎜
③第2節間~5節間(地上から数えて1-6節目)
➃陸域ヨシの密度・横圧縮強度・破壊荷重は 水域ヨシのそれよりやや大きい
=陸域ヨシが蘆舌の材料として適している
各地のヨシ(上牧・鵜殿/西の湖/北上川/渡良瀬遊水地)の比較
この蘆舌の4つの要件を満たすヨシを各地から集め蘆舌にし、比べようとしたが、「今のところ試材の要件を正確に揃えることが難しい」ので「外径を大体揃えた各地のヨシの蘆舌の試作をお願いし、製作時の感触についてコメント頂いているところ」という事で「試材の要件がきちんと揃えられていないので、正確なデータとは言えず、初動段階の報告とお考え下さい」と断り書きを記しています。
また蘆舌の製作は篳篥の演奏家の「中村仁美氏と春木光徳氏(小野雅楽会所属)にご協力いただいた」とのことです。
写真 各地のヨシで蘆舌を製作
左から 上牧・鵜殿のヨシ、西の湖のヨシ、北上川のヨシ、渡良瀬遊水地のヨシ
各地のヨシを蘆舌にした時の感想が記されています。
「大まかに見て、上牧・鵜殿のヨシは製作しやすい傾向があるようです。
硬くて肉厚で、見た目も白くて艶があって美しい。また硬いだけでなく、弾力があるとのことです。
そういう素材であるから、相応の技術を持っている演奏家の方にとって使いやすくて、しかも長持ちするのであろうと推察されます。
そして上牧・鵜殿以外のヨシについては、やや上牧・鵜殿のものに近いのではないかという感触があったのが、渡良瀬遊水地のヨシのようです。
表面は硬いのですが、中が柔らかいという感想が寄せられています。」(p63)
そして図8として「蘆舌の製作感、演奏感比較」(p63)の一覧表がありますので転載し、赤字の部分などを抜き出しました。
写真 図8 蘆舌の製作感、演奏感比較
上の図8の表から 赤字部分を含め一部を以下に抜書きしました。
○上牧・鵜殿のヨシ
*外径に応じて厚みも相応にある
*図紙側を押してもへこまない
*固くてコシがある
*繊維が詰まっていて引き締まった感じ
*ひしいでも戻ろうとする力がある良いヨシ
*丸くひしぐことができる
*色が白くて艶がある
○西の湖
*太さが理想的であっても厚みが薄いものが多い
*柔らかめ
*割れが多い
*黒い箇所が散見される(内側も)
○北上川
*比較的細めのものが多い
*黒い箇所が散見される
○渡良瀬遊水地
*完全な水域ではないが比較的水に近い
*北上川、西の湖に比して太い傾向
*図紙側を押すと少し動くが比較的固め
*内側も黒く、黒い筋もあるので柔らかい(弱い)
*指で押しても楕円にたわむことなく硬い
*表皮が固く、鵜殿のヨシを削る力ではごく浅くまでしか刃が入らない。
*深く削るほど柔らかくなる
*黒い筋が散見される(内側も)
*ふっくらと潰せない(横から見ると薄い)
*鵜殿のヨシよりさらに外側が固く、内側が柔らかいため、削った後の振動する部分が柔らかいのが残念。
*柔らかくて脇が割れにくいので、口を締めて脇を割ってしまいがちな初心者にむくか
ヨシの「黒ずみ」
各地のヨシを見ると「黒ずみ」が見られます。
この「黒ずみ」についても記されています。
「ところで現在、ヨシの「黒ずみ」が課題として見えてきています。(図9)この黒ずみは斑点みたいに出ることもあれば、筋みたいに出ることもあるのですが、今のところ、それが特にどこかの特定の産地のヨシに出るというわけではないようです。
例えば西の湖のヨシには黒ずみのあるものが少し多く、逆に上牧・鵜殿は少ないのですが、黒ずみがあるとそこだけ強度が弱いそうです。そうなると要件としてマイナスになる可能性がある。
そういう黒ずみがなぜ出てくるのか、この後報告してもらう倉島研究員の協力を得て調べているところですが、詳しくはわかっていません。
ちなみに、例えば西の湖のヨシは、内側まで黒かったりして、篳篥の蘆舌用には使い勝手が良くなかったようです。
あるいは北上川のヨシは、表皮から少し下のところまで黒ずみが浸透している部分があります。
これが渡良瀬と上牧・鵜殿のヨシについては、少し黒く見えるところでも、表皮の下にまで黒ずみが突き抜けてはいないということが、今のところは見えます。
ただこれは、現在非常に限られた試材でしか検証できていないので、まだこの検証は始まったばかりです。そういうことで、中間報告というよりもむしろ初動のご報告になりました。」
(p64)とのことです。
写真 図9 各地のヨシの 黒ずみ
産地によってこんなにも異なっているのですね。
黒ずみの原因が分かると対処方法も考えられるかもしれません。
今までは産地によって蘆舌にした場合の違いについての写真や説明が発表されていませんでした。
このような産地の違いが分かると「なぜ上牧・鵜殿のヨシが、篳篥の蘆舌に適するのか」ということもさらに詳しく分かってくるように思います。
篳篥用ヨシの保全
「公的な資金を入れて軌道に乗せていくことも重要」
この冊子の中でヨシ原の保全の資金についても言及されています。
「ツルクサ抜きはヨシ原焼きが終わってから夏の終りまで継続的に実施しなければなりません。
こうなってくると、ヨシ原の保全には相当のマンパワーと費用が必要になります。
これが事実であろうと思います。
そしてよく考えたら、雅楽は無形の文化財で、上牧・鵜殿のヨシを使っている宮内庁式部職楽部の楽師が演奏する雅楽は国の重要文化財です。
それを継承するのに欠かせない原材料・陸域のヨシを安定的に確保する観点から言えば、少なくとも現段階ではマンパワーや費用について継続的な支援が望まれます。
一時時な支援ではなく、こうしたことに一定程度目途がつくまで公的な資金を入れて軌道に乗せていくことも重要で、工夫されてしかるべきだと思っています」(p61-62)と記しています。
来年は4年目 「公的支援」を
3年前、篳篥用ヨシの全滅を知ってから雅楽協議会は、雅楽関係者を始め多くの方々からの寄付により、「つる草抜き」を行ってきました。3年続けて今年も7000㎡のヨシ原を復活させ篳篥用ヨシを採取できるまでになりました。多くの皆様のご協力によるものです。感謝申し上げます。
ところが「つる草抜き」エリア以外は、3年前とは比べ物にならない程、つる草とオオブタクサなどが繁茂してきています。ひどいものです。
ですから、もし3年前に手を付けていなかったとしたら陸域のヨシは絶滅に到ったとしても不思議ではありません。3年前からヨシの再生・復活に手を付けたからこそ、ヨシの再生・復活の一歩を踏み出せたものと思います。
来年は4年目になります。
この東文研の冊子の中でも書かれていますように「宮内庁式部職楽部の楽師が演奏する雅楽は国の重要文化財です。それを継承するのに欠かせない原材料・陸域のヨシを安定的に確保する観点から言えば、少なくとも現段階ではマンパワーや費用について継続的な支援」が無ければ続けていくことはできません。
続けられないという事は、篳篥用ヨシの採取ができなくなり、雅楽の伝承が途絶えることを意味します。
「雅楽の歴史的危機」は現在も進行しています。
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[2] つる草抜き 活動記録 『篳篥用ヨシの再生へ ~上牧・鵜殿ヨシ原~』冊子発行
篳篥用ヨシが全滅した2021年秋、なんとかヨシを再生できないかと模索した経過や、問題点など、また つる草抜きの意義や活動などを記録しました。写真を多く掲載しました。
鈴木治夫 著 発行:2024年3月 雅楽協議会 サイズ:A4 頁数:54頁
https://musashino-gakki.com/product/?p=100701
定価 1,100円(税込)
武蔵野楽器 ℡03-5902-7281
上記アドレスより申し込めます。
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[3] 篳篥の蘆舌用ヨシの購入について
「つる草抜き」エリアの篳篥蘆舌用のヨシを購入希望の方は下記へご連絡ください。
連絡先・問合せ先 メールアドレス
kimura7633@gmail.com (上牧実行組合 木村和男氏)
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[4] 『ヨシ原通信』バックナンバー
『ヨシ原通信』バックナンバー
№1~№130 (2022年2月10日) ~(2022年12月31日)
http://gagaku-kyougikai.com/?p=684
№131~№269 (2023年1月8日)~(2023年12月13日)
http://gagaku-kyougikai.com/?p=2139
№270~最新号 (2024年1月11日)~
http://gagaku-kyougikai.com/?p=3875
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[5] 問合せ先・連絡先
メール gagakudayori@yahoo.co.jp
℡042-451-8898 ℡090-1538-1693
雅楽協議会 http://gagaku-kyougikai.com/
発行 雅楽協議会 ヨシ対策室 担当 鈴木治夫
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