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『ヨシ原通信』No.336 2024年11月5日(火)
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[1]「篳篥用ヨシの再生」と「つる草抜き」
[2]『篳篥用ヨシの再生へ』活動記録 冊子発行
[3] 篳篥の蘆舌用ヨシの購入について
[4]『ヨシ原通信』バックナンバー
[5] 問合せ先
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[1]「篳篥用ヨシの再生」と伝統的手法「つる草抜き」
篳篥用ヨシの全滅
2021年秋 篳篥用ヨシ(篳篥のリード=蘆舌に使用するヨシ)が全滅しました。この上牧・鵜殿のヨシが使えなくなると篳篥の音色が変わり、それは即ち雅楽の音色が変わることを意味します。昔、篳篥が大陸から伝えられた時は、リード(蘆舌)にはダンチク(暖竹=竹の一種)を使用していました。平安時代になり、外来舞楽の和風化がすすめられ、篳篥の蘆舌はダンチクからヨシに変えられると共に管の内側は漆が塗られ桜樺が巻かれるようになりました。龍笛も管の内側に漆が塗られ、周りは桜樺が巻かれ、頭には鉛が入れられました。鳳笙も正倉院の鳳笙から根継や歌口が改良されました。
このようにして平安時代に長い時間をかけて雅楽の音色の「和風化」が行われました。
雅楽の中の「御神楽」「朗詠」「催馬楽」など「国風歌舞」が生まれたのは平安時代になってからです。
(写真 2021年12月23日 大阪府高槻市の淀川右岸、上牧・鵜殿ヨシ原
篳篥用ヨシが全滅 ヨシは押し倒され堤防が見渡せる)
雅楽の音色が変わる
歴史的な雅楽の危機
平安時代から続いてきたこれらの雅楽の音色は、篳篥や笛、鳳笙の音色に支えられて伝承されてきました。
しかし、私たちの時代に篳篥の音色を支えてきた蘆舌のヨシがだんだん悪くなり、採れなくなってしまいました。平安時代から伝えられてきた雅楽の伝承が私たちの代で途切れてしまうという「雅楽の危機」を迎えてしまいました。ヨシが採れなくなった理由は、環境の変化などですが、直接的にはカナムグラ、ヤブガラシなどのつる草がヨシを押し倒すからです。
「他の地域のヨシではダメですか」という意見も寄せられました。しかし、多くの雅楽の人が全国はもちろん中国大陸も探したようですが見つかりませんでした。
最近の研究(「ヨシ原通信」№335)でも、他の地域でのヨシの違いを研究されていますが、篳篥の蘆舌には、上牧・鵜殿のヨシに勝るものは無いようです。
千年以上前、平安時代の人々も、蘆舌に適したヨシをいろいろと探し、行き着いたのが「上牧・鵜殿のヨシ」だったと思われます。単に三方楽所(奈良・京都・大阪)から等距離だからではなく、結果的に「上牧・鵜殿」の場所が等距離だったというに過ぎない。
上牧・鵜殿のヨシが全滅することは雅楽の伝承が途絶えることを意味します。私たちの時代に「雅楽の歴史的な危機」を迎えてしまったのです。(在庫もあるので今日、明日でヨシが無くなるわけではありませんが、篳篥用ヨシの再生がかなわなければ3年~10年先は無くなるでしょう)
(上写真 上牧・鵜殿のヨシで作った蘆舌)
(上牧・鵜殿のヨシの断面)
上2枚の写真・東京文化財研究所発行『森と支える知恵とわざ』より『ヨシ原通』№335 )
篳篥用ヨシの再生へ
2022年春から 「つる草抜き」
2021年の秋に「ヨシは全滅」との知らせを受け、「これは大変!」「雅楽を後世に伝える」ために「篳篥用ヨシの再生」への準備に入り、翌2022年春から多くの方の協力を得て「ヨシ原焼き」と「つる草抜き」を柱に「ヨシ原再生」へ取り組みました。
「つる草抜き」は、2022年、2023年、2024年の3年間、3月末から9月まで(2024年は8月末まで)の年間約40日間余おこない、特に初年度の2022年はのべ1200人以上の方々が「つる草抜き」に参加してくださいました。
(写真 「つる草抜き」 2022年5月18日)
この取り組みによってつる草に覆われていた7000㎡(「つる草抜き」の面積)は、ヨシがすくすくと成長し「篳篥用ヨシの再生」への第一歩を踏み出しました。
しかし、これで終わりではありません。環境の変化・破壊は進んでいます。手をこまねいているとつる草(カナムグラやヤブガラシ)などがすぐにヨシに取り付いて押し倒しにかかります。1年草ながら大木のように高く太くなるオオブタクサは予想以上に繁茂してきています。
「つる草抜き以外の方法は?」ありませんでした。
「つる草抜き」は、昔から「確実にヨシ原を守る方法」として伝えられてきた伝統的方法です。「篳篥用ヨシの再生」もこの伝統的方法ですすめています。一本一本の草を抜いていくのですから「とても手間がかかる作業」です。ですから「もっと手間のかからない方法はないのか?」と質問されることが度々あります。
答えているのは「「つる草抜き」以外の方法で「上手くいった方法」はありません。成功した唯一の方法は「つる草抜き」だけでした」と答えています。
このような質問が今後も寄せられるでしょうから、「つる草抜き」以外の方法で、「試した方法」「考えられた方法」を下記に列記しておきます。下記に列記した方法は全て「篳篥用ヨシ再生はダメだった」方法です。
1.「導水路」 (淀川の水をくみ上げヨシ原に流す)
淀川の水をポンプでくみ上げてヨシ原に流し、カナムグラなどを枯らすということで、1996年から28年余り現在も導水路に水を流していますが、ヨシが思うほど育っていません。また篳篥用ヨシは陸域のヨシが必要で、水に浸かる導水路周辺の水域のヨシは篳篥用ヨシには使えないのです。
(写真 導水路の清掃 枯れたヨシなどが水の流れをこばむので導水路の清掃
2023年4月17日『ヨシ原通信』№165、166、172 )
2.「切り下げ地」(ヨシ原を切下げ、川面に近づける)
ヨシ原を水に近づけるので、これも水域のヨシとなりますから篳篥用には使えません。
現在は細いヨシは育っていますが、篳篥に使用できるような太さのヨシは育っていません。
(写真 ヨシ原の下流側より京都方面を望む。2024年6月4日
写真中央の低くなっているところが切り下げ地。細いヨシが生育している)
3.「ヨシ地下茎の移植」
(良質のヨシの地下茎を掘り出し、ヨシ原の中でヨシの生えていない所に移植する)
土質との関係もあるようでヨシの地下茎を移植してもヨシは生えてこなかった。そしてヨシの地下茎を持って行かれた元の地は、ヨシが無くなりヨシは生えてこなくなった。
(2006年第19回、2008年第22回 淀川環境委員会報告
『雅楽だより』61号2020年4月p7、冊子『篳篥用ヨシの再生へ』p23 )
4.「木材チップを敷く」(つる草などの芽が生えてこないようにするため)
この方法は毎年チップを敷くことになり、チップの中には雑草の種もあり、年を重ねると、より以上の雑草が生えるため、木材チップを敷くのは無理となりました。 (「雅楽だより」58号2019年7月号p5)
(写真 厚さ20㎝程に木材チップを敷く。
毎年敷くことになり、雑草の根絶にはならない事が分かった。2019年3月4日)
5.「50センチ程度表土を掘削」(つる草の種や地下茎を表土ごと取り除く)
これはカナムグラの種やヤブガラシやセイタカアワダチソウの地下茎を取り除くが、ヨシの根も削り取ってしまうので、ヨシも生えてこなくなる
下記の資料を見れば「表土を50㎝の深さで掘削」したとすると、肝心のヨシの地下茎や根の多くも取り除いてしまう事になり、ヨシは激減してしまうことが分かる。「掘削」は、つる草を退治するだけでなく、ヨシも退治することになる。
「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」(以下 検討会)の第4回(2014年(平成26年)5月24日)に配布された資料-
https://corp.w-nexco.co.jp/newly/h26/0526/pdfs/04.pdf
写真 ヨシの地下茎 50㎝の深さまでにヨシの地下茎の多くがある。
また、切り下げ地で、数年前からセイタカアワダチソウの除草のため表土を掘削し地下茎の削除を行ったが「良い結果は出ていない」という。
6.ヨシの地下茎をヨシ原以外に移植
「ヨシ原の堤防の外の池の埋め立て地にヨシ原の良い地下茎を移植したが、細いヨシしか生えてこなかった」ということです。ヨシの地下茎を移植しても「細いヨシ」しか生えてこない。移植先の土壌によると思われますが、③「ヨシ地下茎の移植」の例にもあるように移植は簡単ではありません。
7.休耕地を借りて篳篥用ヨシを育てる
休耕地が見つかったとしても借用料が必要ですし、新しい土地で育てるには時間もかかる。
滋賀県にあるNEXCOの植物の研究と実験を行っている「緑化センター」(㈱高速道路総合技術研究所)では、上牧・鵜殿のヨシ・オギの地下茎によるヨシ・オギの生育実験と研究を行っている。
ここは植物専門の職員が常任し「下草を抜く」など管理していますが、2年で2m程、7年でも篳篥用の使えそうな太さは少なかった。
NEXCO「緑化センター」の生育実験を踏まえると、篳篥用のヨシが生えてくる可能性はあるが、休耕地の土壌によって生育は大きく変わる。太くならないこともあり得るし、例え太くなっても十数年はかかると予想される。不確かな事が多すぎ、かつ休耕地の借り上げ料など経費もかかるので対応できない。
(写真 滋賀県のNEXCO総研・「緑化センター」 ヨシを栽培してから7年余りのヨシ。篳篥用に使える太さのヨシは少ない。2022年12月5日)
(写真 「緑化センター」で栽培2年目のヨシ、高さ2m程で稈は細い。2022年12月5日『ヨシ原通信』№129)
8.ヤギに雑草を食べてもらう
ヤギは牛と同じ反芻動物で胃が4つあり、イネ科の葉の硬い植物も食べ、肝心のヨシ(葦牙)も、ヨシの葉も食べられてしまう。糞、尿も大量に排出するし、ヤギを飼うには、他にもいろいろと不都合な点が多い。
(写真 ヤギ)
9.除草シートを張る
除草シートは土に帰らない。ヨシ原焼きの前に全ての除草シートを回収することは不可能。
土を覆うので昆虫など多くの生態系を脅かすなどの理由でダメ。
10.除草剤を撒く
除草剤(農薬)使用は、植物に毒を撒いて殺すので人間の体にも、土にも、虫にも悪く、試す前から「無理」となります。ましてや口にくわえる篳篥の蘆舌に除草剤は使用出来ない。しかしインターネットなどで「除草」と調べるとほとんどは「除草剤を使用」と表示されます。
以上、これらの方法では「篳篥用ヨシの再生」はできないとなります。
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[2] つる草抜き 活動記録 『篳篥用ヨシの再生へ ~上牧・鵜殿ヨシ原~』冊子発行
篳篥用ヨシが全滅した2021年秋、なんとかヨシを再生できないかと模索した経過や、問題点など、また つる草抜きの意義や活動などを記録しました。写真を多く掲載しました。
鈴木治夫 著 発行:2024年3月 雅楽協議会 サイズ:A4 頁数:54頁
定価 1,100円(税込)
武蔵野楽器 ℡03-5902-7281
https://musashino-gakki.com/product/?p=100701
上記アドレスより申し込めます。
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[3] 篳篥の蘆舌用ヨシの購入について
「つる草抜き」エリアの篳篥蘆舌用のヨシを購入希望の方は下記へご連絡ください。
連絡先・問合せ先 メールアドレス
kimura7633@gmail.com (上牧実行組合 木村和男氏)
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[4]『ヨシ原通信』バックナンバー
『ヨシ原通信』バックナンバー
№1~№130 (2022年2月10日) ~(2022年12月31日)
http://gagaku-kyougikai.com/?p=684
№131~№269 (2023年1月8日)~(2023年12月13日)
http://gagaku-kyougikai.com/?p=2139
№270~最新号 (2024年1月11日)~
http://gagaku-kyougikai.com/?p=3875
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[5] 問合せ先・連絡先
メール gagakudayori@yahoo.co.jp
℡042-451-8898 ℡090-1538-1693
雅楽協議会 http://gagaku-kyougikai.com/
発行 雅楽協議会 ヨシ対策室 担当 鈴木治夫
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